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新潟地方裁判所長岡支部 昭和43年(ワ)275号 判決

原告

小林恵智古

ほか二名

被告

君和久

ほか一名

主文

被告等は連帯して、原告小林恵智古に対し金一一八万三三三三円、原告小林久哉及び原告小林哲に対し各金一〇三万三三三三円並びに右各金員に対する昭和四三年一一月五日から支払済まで、年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告等の負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実

一、当事者の求める裁判

原告等

主文一、二項同旨の判決並びに仮執行宣言。

被告君和久

原告等の請求を棄却する

訴訟費用は原告等の負担とする。

被告株式会社テヅカレンタカー

原告等の請求を棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

原告等勝訴の場合担保を条件とする仮執行の免脱宣言。

二、請求原因

(一)  交通事故

被告株式会社テヅカレンタカー(以下単に被告会社という)は自動車賃貸を業とする株式会社であり、車両番号足立五わ四七八号普通乗用自動車(以下本件自動車という)を所有しており、昭和四一年一〇月四日頃、被告君和久(以下単に被告君という)に対し、これを賃貸し、自己のために運行の用に供していたものであり、被告君は同日頃、被告会社から前記自動車を借受け、同日午後一一時二〇分頃、新潟県長岡市関東町四〇五番地先附近道路上を、酒を飲んで右自動車を時速約五〇キロで同市大手通方面から新町方面に向け運転進行し、横断歩道が設けられ、黄色い点滅信号が作動する交差点にさしかかつたが、当時は降雨のため見透しが悪く、路面が滑走し易い状況であつたから運転者としては前方左右の交通を確認するはもちろん、特に進路前方の横断歩道に留意し、横断者の有無に十分注視し、状況により徐行するなとして進行し事故の発生を防止すべき注意義務があるのにこれを怠り、速度を時速約四〇キロにおとしただけで漫然直進通過した過失により、たまたま横断歩道を被告君の進路前方左側から右側へ横断しようと足早に出て来た訴外小林清一(以下訴外清一という)を約五メートルに接近して始めて発見し、直ちにハンドルを左に切り急停車の措置を講じたが時機を失し、自車右前側部辺を同人に衝突させて約五メートル右斜前方にはねとばして転倒させ、動けない状態に陥らしめ、更に自車の約五〇メートル後方を追従進行して来た訴外大原幸吉の運転する普通乗用自動車をして右訴外小林清一を右同車の前部バンバー辺にはさみ込んで約五〇メートルの間を押し進むに至らしめ(以下本件事故という)、同人に骨盤骨折、膀胱破裂、骨盤軟部組織挫滅等の傷害を負わせ、その結果同月五日午後〇時二分ころ長岡市日赤町四丁目一番地総合病院長岡赤十字病院において右傷害により死亡するに至らしめた。

(二)  本件事故は被告君及び訴外大原幸吉との過失によるものであり、被告君は民法七〇九条による直接の不法行為者として、被告会社は被告君運転の本件自動車の運行供用者として、本件事故によつて生じた一切の損害を連帯して賠償する義務がある。

(三)  原告小林恵智古(以下単に原告恵智古という)は訴外亡小林清一の妻、原告小林久哉(以下単に原告久哉という)は同訴外人の長男、原告小林哲(以下単に原告哲という)は同訴外人の二男であり、いずれも、同訴外人を相続した。

(四)  損害

(1)  訴外清一の得べかりし利益の喪失による損害

訴外清一は死亡当時三五歳(昭和六年七月一八日生)であり健康体を有する男子であつたから、本件事故がなければ将来少くとも三五・五二年生存する可能性のあつたことは厚生省大臣官房統計調査部編第一一回生命表により明らかである。そして、同訴外人は、国鉄職員で長岡車掌区に勤務していたものであるところ、死亡前三ケ月の月平均所得は本給四万五二二四円、乗務手当六一〇五円合計金五万一三二九円であり、他に年間本給の三カ月分金一三万五六七二円の賞与があつた。そしてそのうち自己の生活費として一カ月金一万二五五〇円一カ年合計一五万六〇〇円を支出していた。従つて、同人は年間六〇万一〇二〇円の純益があり、同人が定年となる五八歳までの二二年間は少くとも同額の収益をあげることができたはずである。それでこれを本件事故発生における一時払金額とするため、ホフマン式計算法により一年毎に年五分の割合による中間利息を控除して二〇年分を合算すると金八七六万二八七一円となる。

原告等はいずれも前項記載の如く訴外清一の相続人で同訴外人の被告等に対する損害賠償請求権の三分の一宛すなわち各金二九二万九五七円を相続した。

(2)  葬儀費用

原告恵智古は訴外清一の葬儀費用として金三〇万円を支出した。

(3)  原告等の慰藉料

原告等は、訴外清一の妻あるいは子として同人の不慮の死によつて強い精神的苦痛を蒙つたが、その身分関係、将来への生活の不安と困難、その他本件事故の状況等諸般の事情を考慮すれば、その慰藉料は原告恵智古に対し金一〇〇万円、原告久哉及び原告哲に対し各各金五〇万円を以て相当とする。

(五)  保険金及び訴外大原からの金員の受領

原告等は被告会社所有の本件自動車にかかる自動車損害賠償責任保険により東京海上火災保険株式会社から金一五〇万円、訴外大原の車にかかる自動車損害賠償責任保険により日産火災海上保険株式会社から金一五〇万円を受取り、これを均分して原告等の損害賠償請求権に充当した。また訴外大原から金三二五万円を受領し、内金一五万円は原告恵智古の支出した葬儀費用三〇万円の内金に充当し、その余は均分して原告等の損害賠償請求権に充当した。

(六)  よつて、被告等に対し、原告恵智古は、前記(四)の(1)ないし(3)の合計四二二万九五七円から保険金一〇〇万円及び訴外大原から受領した金員一一八万三三三三円を控除した金二〇三万七六二四円、原告久哉及び原告哲は、各前記(四)の(1)(3)の合計金三四二万九五七円から保険金一〇〇万円及び訴外大原より受領した一〇三万三三三三円を控除した各金一三八万七六二四円を請求することとなるが、訴外大原との権衡もあるので、被告等に対し、原告恵智古は内金一一八万三三三三円、原告久哉及び同哲は内金各金一〇三万三三三三円及び右各金員に対する弁済期後の昭和四三年一一月五日から支払済まで、民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

三、請求原因に対する被告等の答弁

被告君

請求原因中、被告君が、被告会社から本件自動車を借り、原告等主張の頃その主張の場所を運転中同車に訴外清一が衝突したこと、更に同訴外人が訴外大原運転の自動車に衝突され死亡するに至つたこと、原告等の相続関係が原告等主張のとおりであることは各認め、その余は争う。

仮に、被告君に本件事故につき責任があるとしても、訴外清一にも過失があるから損害の算定について斟酌されるべきである。

被告会社

(1)  請求原因一項中、被告会社が本件自動車を所有していること、原告等主張の日時場所で被告君の運転する本件自動車が訴外清一と衝突したこと、同訴外人が本件自動車の後続車である訴外大原運転の自動車に衝突され死亡するに至つたことは認め、被告会社が本件自動車の運行供用者であること及びその余の点は否認する。

(2)  同二項中、本件事故の発生につき、訴外大原に過失があつたことは認めるが、被告君に過失があつたこと、被告会社が本件自動車の運行供用者であることは否認する。

本件自動車は、いわゆるレンタカーであつて、被告会社は本件自動車の所有者ではあるが、これにつき運行の支配も利益もない。本件自動車を貸付けるに際しては、その利用目的、目的地、利用人員、利用時間等詳細を取決め、一定の額の金員を徴するが、一旦借受人に貸与したのちは同人が本件自動車を利用することにつき被告会社は何等の支配を及ぼし得ないのであるし、被告会社の受ける金員も、そのうちガソリン代、事故補償金(任意保険料)は利益でないこともちろんであり、レント料金も本件自動車を一定時間、一定距離利用させるため貸渡したことの反対給付であつて、それは運行利益ではない。従つて、被告会社は運行供用者ではない(最判昭和三九年一二月四日民集一八巻一〇号二〇四三頁、山口地裁下関支部判昭和四三年一〇月三一日判例時報五三七号七〇頁、判例評論九七号三〇頁参照)。

仮に、被告会社に本件事故の責任があるとしても、訴外清一の死亡は訴外大原のみの行為によるもので、被告君の行為との間に因果関係がないから、被告君は傷害の限度で責任を負うにすぎず、被告会社も右限度で責任を負うにとどまる。

仮に、本件事故による訴外清一の死亡につき被告君と訴外大原に過失があるとしても、その過失割合は訴外大原が大であるから損害額算定に当つて考慮されるべきである。

(3)  同三項不知

(4)  同四項中、(1)の主張は争い、その余は不知。

(5)  同五項中、原告等がその主張の保険金の支払をうけたこと、訴外大原からその主張の金額をうけとつたことは認めるが、その充当関係は争う。右は、原告等の適正損害額全体に均分して充当されるべきである。

(6)  同六項は争う。

なお、仮に被告会社に本件事故について責任があるとしても、訴外清一にも過失があるから損害額を定めるにつき斟酌されるべきである。

四、被告等の仮定抗弁

(1)  本件事故は、訴外清一が、深夜事故発生地の近くに横断歩道があるのに右横断歩道以外の部分を、本件自動車の直前に突然とび出したことにより発生したもので、かかる場合本件自動車を運転していた被告君には信頼の原則からいつて過失があるということはできない。

そして、被告会社にも何等の過失がなく、本件自動車には構造上の欠陥も機能の障害もなかつた。

(2)  被告等と訴外大原が原告等に対し本件事故による損害を連帯して賠償する義務があるとすれば、原告等と訴外大原との間に、本件事故後裁判外の和解が成立し、右訴外人は、原告等が請求原因五項で支払を受けたと主張する額の和解金を完済したもので、右は被告等に対しても絶対的効力が生じる。

五、仮定抗弁に対する原告等の答弁

全部争う。

六、証拠〔略〕

理由

一、原告等主張の日時場所で、被告君が被告会社所有の本件自動車を運転し訴外清一に衝突したこと、右訴外人が後続車である訴外大原運転の自動車にも衝突されたこと、右訴外清一が右衝突後死亡するに至つたことは当事者間に争いない。

二、そこで、被告者が右訴外清一の死亡につき責任があるか否かにつき検討する。

〔証拠略〕によれば、被告君は、本件事故当日の午後二時頃、東京都内の被告会社営業所から本件自動車を借り受け妻子を同乗させて約七時間運転し、午後九時二〇分頃新潟県小千谷市の生家に到着したこと、同被告は同所で、今まで長時間運転し疲れたし、もはや運転の必要がないのでくつろいで、午後一〇時頃から空腹の状態で何も食べずコップ酒を飲みはじめ一合位飲酒したところ、急に同県新津市へゆくことになりすぐ食事をし本件自動車を運転して出発したこと、同県長岡市内へ入つた頃酒の酔を感じ少し飲みすぎたと思つたが、翌一〇月五日東京都へ帰宅する予定であつたので時速約四五キロで運転を継続したこと、そして、原告等主張の日時頃その主張の本件事故現場にさしかかつたが、同被告は呼気一リットル中に〇・二五ミリグラム以上のアルコールを体内に保有し、直立しても体が左右にゆれるほどで正常な運転ができないおそれがある状態であつたこと、本件事故現場は舗装された交差点附近でその交差点の両側(同被告の進路手前及び前方)に横断歩道があり、当時は黄色の信号機が点滅しており、見通し状況は、小雨が降つており照明も少なく夜半のため、良くなかつたこと、同被告は右交差点で少し減速しセンターラインの約一・五メートル左側附近を進行し交差点を通過したところ、前記前方の横断歩道上を歩行中の訴外清一を約五メートルに接近して発見したので直ちにハンドルを左に切り急ブレーキをかけたが、本件自動車右前部を同訴外人に衝突させて右斜前方にはねとばして転倒させ動けない状況に陥らせ、同被告は左斜前方へ約一七メートル進行し歩道へ本件自動車を乗りあげて停止したこと(衝突地点から本件自動車の停止した地点までの距離に関する被告君本人尋問の結果は前記甲第九、第一二、第一三号証にてらし措信できない)他方訴外大原も、呼気一リットルにつき〇・二五ミリグラム以上のアルコールを体内に保有しその影響で正常な運転ができないおそれがある状態で自動車を運転し、右被告君より少し遅れ、本件事故現場を同被告と同一方向へその進路よりややセンターライン寄りを時速約四〇キロで走行し、道路上に倒れて動けなくなつている右訴外清一を進路上左前方約六メートルに接近して発見したが、同訴外大原には、右訴外清一が黒い固まりのようにみえかつ人が車道上に転倒して居るなど考えられないし、その直前に被告君の運転する本件自動車が歩道に乗りあげているのを見たことから、同車のタイヤでもはずれてそこにころがつているのでないかと考え、自己が運転する自動車の車輪と車輪の間に入れれば通過できるものと判断し、ハンドルを左に切り車輪と車輪で跨ぐようにして進行したところ、右訴外人を自車の前部バンパー附近にはさみこんでしまい約五〇メートル進行したこと、右訴外清一は、骨盤骨折、骨盤軟部組織挫滅、膀胱破裂等の傷害を負い翌五日午後〇時二分頃右傷害により死亡したこと、右傷害は、本件自動車への衝突で舗装道路に転倒激突しても、訴外大原の自動車に衝突しても負い得るもので、医学的に右被告君と訴外大原の運転する各自動車中のいずれとの衝突によるものか判定できないこと、が各認められる(前記各証拠中、右認定に反する部分は、他の証拠と対比し措信できない。特に、被告君本人尋問の結果中右認定に反する部分は、甲第九、第一二、第一三号証と対比し措信しない。また、訴外清一が本件事故直前に、被告君の進路前方を左から右へ向つて走り出たとの点についても、本件事故直後に作成された甲第一二号証中では、それを目撃したとはいつていないのであり、それが甲第一三号証及び同被告本人尋問では次第に目撃したように変化しているのであつて、以上の点を対比するときは、右事実に関する被告君の陳述は措信できない)。

右事実によれば、被告君が衝突転倒させた訴外清一に、その直後に同所を進行してきた訴外大原が衝突し、同訴外人が前記傷害を負いそれにより死亡するに至つたのであり、右被告君及び訴外大原各自にいずれも右衝突につき過失(前方不注視)があり、右両名の各行為は客観的に関連し共同して右訴外清一に損害を加えた場合に当たるというべきであるし、同訴外人の死亡という結果と右被告君及び訴外大原の前記各過失運転との間には因果関係があるものというべきである。従つて、右両名は、連帯して、訴外清一の蒙つた損害を賠償する義務がある(共同不法行為者内部の損害の負担割合は、共同不法行為者各人の過失の割合に従つて定められるべきことになるが、それは共同不法行為の成立とは直接関係ない)。

三、そこで、被告会社が本件自動車の運行供用者といえるか否かにつき検討する。

〔証拠略〕によれば、被告会社は昭和三九年に設立され、営業所を九個所に設け、約三〇〇台の自動車を所有して、貸自動車業を営む者であること、同被告はその所有自動車の貸渡申込みを受けたときは、運転免許証の記載を精査のうえ、借受目的、利用目的地、契約時間、走行距離、利用人員等を借受申込人と取決めたのち、貸渡料金のほかガソリン代等の実費も徴して自動車を渡すこと、自動車貸渡中は借受人の利用状況、貸渡条件の遵守等の監視は被告会社にはできないこと、貸渡料金は時間、走行距離、車種、平日か土曜休日か等により差等が設けられていること、貸与時間超過利用に対しては料金の倍額の違約金を徴することにしていること、被告君に対して本件自動車(三菱コルト)を利用時間一七ないし二四時間、走行距離一〇〇キロ以内、料金二四〇〇円で貸渡したことが認められる。

ところで、自賠法三条にいう運行供用者責任は、結局いわゆる自動車運行についての支配と利益の有無により判断すべきところ、被告会社は貸自動車業を営み、前記多数の自動車を所有し、それを一定の条件を付し対価をとつて不特定多数の者に貸渡して利用させているものであつて、右の場合、被告会社は、貸渡自動車により運行の利益を得ているほか、借受人を通じて貸渡自動車の運行支配をしていると認めるのが相当である(自動車貸渡中借受人による前記貸与条件の遵守を被告会社が監視できないとしても、被告会社が借受人を通じ運行自体の支配をしていることに変りはない)。

従つて、被告会社は、本件自動車の運行供用者として本件事故により訴外清一の蒙つた損害を被告君と連帯して賠償すべき義務がある。

なお、〔証拠略〕によれば、本件自動車には構造上の欠陥や機能上の障害がなかつたことはうかがわれるが、運転者たる被告君に本件自動車の運行に関し注意を怠らなかつたことが認められないから、自賠法三条但書の主張は認めることができない。

四、〔証拠略〕によれば、訴外清一の本件事故による死亡により、同人の妻である原告恵智古、子である原告久哉及び同哲は各三分の一宛相続した。

五、そこで損害額について検討する。

(1)  訴外清一の得べかりし利益喪失による損害

〔証拠略〕によれば、原告等が請求原因四項(1)で主張する事実を認めることができる(ただし、右甲第一五号証によれば、年間賞与は一九万四三五六円であると認められるが、原告等主張の限度額で認める。また、訴外清一の要する生計費の計算を、便宜総理府統計局作成の統計年鑑中条件の最も近似している右甲第二〇号証により行うことはやむを得ないことというべきであるし、同一世帯員との間に生計費支出額に差異をつけるべきことは望ましいとはいえるが、必らずしもその合理的割合が不明である以上均等額によることはやむを得ないというべきである)。

(2)  葬儀費用等

〔証拠略〕によれば、同原告は訴外清一の葬儀費用、墓石建立費用として少くとも三〇万円の支出をしたことが認められ、右も本件事故と相当因果関係があるというべきである。

(3)  原告等の慰藉料

〔証拠略〕によれば、原告等は訴外清一の妻又は子として同訴外人の死により強い精神的苦痛をうけたほか、本件事故当時原告恵智古は三四歳、同久哉は五歳、同哲は約四歳であつて、今後の生活や子供の養育の困難等を考慮するときは、その慰藉料は少くとも原告恵智古に対し一〇〇万円、その余の原告に各五〇万円支払うべきである。

六、ところで、原告等が自動車損害賠償保険から三〇〇万円、訴外大原から三二五万円を各受領したことは、当事者間に争いないから、右三分の一に当たる二〇八万三三三三円宛(円未満切捨て)を前記各原告の蒙つた損害額から控除すべきである。そうすると、原告恵智古の損害は、四二二万九五七円から右額を控除した二一三万七六二四円、その余の原告の損害は、各三四二万九五七円から右額を控除した各一三三万七六二四円、ということになるが、そのうち原告恵智古は一一八万三三三三円、その余の原告は各一〇三万三三三三円及び右各金員に対する弁済期後の昭和四三年一一月五日から支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の各支払を求めているので、右限度で認めることとする。

七、原告等と訴外大原との間に、本件事故の損害として訴外大原が保険金のほか三二五万円の支払をする旨の私法上の和解が成立したことは当事者間に争いないが、〔証拠略〕によれば、共同不法行為者の一人である訴外大原となした右和解の和解額以外の金額については同訴外人との関係では免除したものと解するほかないが、右のような場合それがその余の共同不法行為者たる被告等にも絶対的効力が及ぶとすることは、被害者保護の見地から妥当でないと解する。従つて、それは和解契約における当事者の意志解釈にゆだねられるべきである。そこで、右和解についてみると、それはあくまでも訴外大原との間のそれで、他の共同不法行為者である被告等に対する関係では請求権を留保しているものであることが明らかである。従つて、この点についての被告等の抗弁は理由がない。

なお、本件事故直前の訴外清一の動静は、前記二で認定のとおりであつて、本件全証拠によつても、同訴外人が被告君の進路前方にとび出したことその他同訴外人に過失があることが認められないから過失相殺はしない。また、原告恵智古本人尋問の結果によれば、原告等は訴外清一の死亡により遺族年金を受けていることが認められるが、右は遺族固有の権利であるというべきであるから、訴外清一の損害中から右を控除することはしない。

八、以上の次第で、原告等の本訴請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 渋川満)

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